東京高等裁判所 平成12年(ネ)2837号 判決 2000年12月27日
控訴人兼附帯被控訴人(原審被告兼反訴原告)(以下「控訴人」という。)
小林勲
控訴人
小林好子
右両名訴訟代理人弁護士
佐藤博史
藤田尚子
樫尾わかな
被控訴人兼附帯控訴人(原審原告兼反訴被告)(以下「被控訴人」という。)
アポロ出版株式会社
右代表者代表取締役
上田稔外被控訴人四名
右五名訴訟代理人弁護士
塚田成四郎
主文
一 本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人らは、連帯して、控訴人らに対し、金二九五万九五二五円及びこれに対する平成一一年五月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人アポロ出版株式会社は、控訴人らに対し、金一〇万四八三八円及びこれに対する平成一一年五月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
3 控訴人らのその余の請求を棄却する。
二 本件附帯控訴を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを二分し、その一を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。
四 この判決は、第一項1、2に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 当事者の求める裁判
一 控訴の趣旨
原判決中反訴請求に係る部分を次のとおり変更する。
被控訴人らは、連帯して、控訴人らに対し、金六五一万六六九二円及び内金三〇七万八三六二円に対する平成一一年五月二七日から、内金三四三万八三三〇円に対する平成一二年一月二九日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
被控訴人アポロ出版株式会社(以下「被控訴人アポロ出版」という。)は、控訴人らに対し、金一一万五〇〇〇円及びこれに対する平成一一年五月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 附帯控訴の趣旨
1 原判決中被控訴人ら敗訴の部分を取り消す。
2 控訴人らは、連帯して、被控訴人アポロ出版に対し金二三万八五一五円、その余の被控訴人らそれぞれに対し金三四万三三五三円及びこれらに対する平成一一年四月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。(被控訴人らは、当審において、本訴請求について右のとおりに請求を減縮した。)
3 控訴人らの反訴請求を棄却する。
第二 事案の概要
一 事案の概要は、次項のように加除、訂正をするほかは、原判決「事実及び理由」欄中の「二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
二1 原判決八頁七行目の括弧内を「以下「本件建物」といい、本件建物を含むビル全体を「本件ビル」という。」に、同一二頁三行目の「する旨」を「旨」にそれぞれ改める。
2 原判決一二頁八行目から同一三頁五行目までを次のように改める。
「(1) 前記基本的事実関係によると、本件賃貸借契約は平成一一年一月一四日限り、本件駐車場契約は平成一〇年一二月一四日限り、それぞれ終了したことになるから、控訴人らは、各自、被控訴人アポロ出版を除くその余の被控訴人らそれぞれに対し、保証金一二〇〇万円から次のア、イ、ウ、オ、カの各金員(消費税込み、合計一〇二八万三二三四円)を控除した残金(一七一万六七六六円)の五分の一に当たる三四万三三五三円(円未満は四捨五入)、被控訴人アポロ出版に対しては、右金員から一〇万四八三八円(エの駐車場賃料から本件駐車場契約の敷金二〇万円を控除した金額)を更に控除した二三万八五一五円、及び各金員に対する本件訴状送達の日の翌日である平成一一年四月一〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払義務がある。」
3 同一三頁九行目及び一〇行目を次のように改める。
「イ 共益費 合計八七万二六五一円(平成一〇年一一月分、一二月分各三五万五九五〇円、平成一一年一月一日から同月一四日まで[日割計算分]一六万〇七五一円)」
4 同一四頁四行目の「六四万五一六二円」を「一二四万六六〇二円」に改め、同一四頁六行目から同一五頁二行目までを削除し、同一五頁三行目の「(3)」を「(2)」に改め、同頁九行目の「判断して」の次に「、原審において」を加え、同頁一〇行目の「申し出ているのである。」を「申し出たが、当審においては、これを一二四万六六〇二円に変更する。」に、同一六頁一〇行目の「(4)」を「(3)」にそれぞれ改める。
5 同一七頁六行目の「(合計五一四万八三八七円)」の次に「、共益費(合計八七万二六五一円)」を加え、同頁八行目の「共益費及び」を削り、同頁九行目から同一八頁一行目までを削除する。
6 同一八頁二行目から同頁八行目の「慣習となっている。」までを次のとおり改める。
「(2) 本件原状回復条項では、住宅の賃貸借の場合のように「通常の使用に伴い生じた損耗を除く」ものとはされず、「本契約締結時の原状」に回復することを要することが明確に定められているから、文字通り、被控訴人らが本件建物を賃借した時点における原状に回復することを要するものと解すべきである。本件の場合、被控訴人らはオフィスビルである本件建物を新築の状態で借り受けたのであるから、空調設備のオーバーホールを行い、壁クロス、床カーペット(場合によっては天井板も)を全面的に張り替え、スイッチ部分を含む照明器具等を新品に取り替えるなどして、本件建物を、自己の費用負担で、可能な限り新築当時の原状に戻した上で、返還する義務がある。これが、オフィスビルの賃貸借における「原状回復」の意味である。オフィスビルの原状回復費用は、賃借人の建物の使用方法によって左右され、損耗の状況によっては相当高額になること、賃借人が入居する期間は、専ら賃借人側の事情に依存していて、賃貸人において予測することが困難であることなどから、賃貸人において適正な原状回復費用をあらかじめ賃料に含めて徴収することは現実的には不可能である。そこで、原状回復費用を賃料に含めないで、賃借人が退去する際に、原状回復費用をその賃借人に負担させるのが経済的にみても合理的である。」
7 同二〇頁二行目の「(4)」を「(3)」に、同二一頁二行目の「(5)」を「(4)」にそれぞれ改める。
8 同二一頁三行目の「ア」から、同頁四行目から五行目にかけての「一五三九万三三六二円)」までを「ア、イ、ウ、オ、カ、キを合算した一八五一万六六九二円(ただし、被控訴人アポロ出版については、エを加算した合計一八八三万一六九二円)」に、同頁一〇行目冒頭から同二二頁三行目末尾までを「控訴人らは、被控訴人らに対し、六五一万六六九二円及び内金三〇七万八三六二円に対する本件反訴状送達の日の翌日である平成一一年五月二七日から、内金三四三万八三三〇円に対する反訴請求の趣旨変更申立書を原審において陳述した日の翌日である平成一二年一月二九日から各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を、被控訴人アポロ出版に対しては、右のほかに、一一万五〇〇〇円及びこれに対する本件反訴状送達の日の翌日である平成一一年五月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。」にそれぞれ改める。
第三 当裁判所の判断
一 事実関係の補充
事実関係の補充については、次のように加除、訂正をするほかは、原判決「事実及び理由」欄中の「三 当裁判所の判断」1(二三頁三行目から二八頁四行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二三頁九行目の「原告らは」を「本件ビルは平成五年三月に竣工し、被控訴人らが本件建物の最初の賃借人であった。被控訴人らは」に改め、同二五頁一行目の「トラック」を削り、同二六頁七行目から八行目にかけての「得た。」の次に「伸和装飾の右見積書の中には、電気設備撤去工事及び空調設備オーバーホール工事は含まれていないので、右各工事を除く原状回復工事の見積りの中では、太伸産業の見積りが最も低額であった。」を加える。
2 同二六頁末行の次に行を改めて次のように加える。
「(六) 被控訴人らが退去した当時の本件建物の状況は、次のとおりであった。すなわち、すべての階の壁面のクロスには、機械の熱で焼けたことなどによる濃淡や黄ばみのほか、黒い染みとなっている所があって、これを洗浄で落とすことは困難であり、部分的な張替えでは継ぎ接ぎとなってしまうため、全面的な張替えを要する状態であった。また、すべての階の床面のタイルカーペットは、機械の熱で焼けたり飲み物をこぼした痕で黒い染みとなっている所が多く、全体的に汚れていて、これを洗浄で落とすことは困難であり、部分的な張り替えでは対処できない状態にあり、特に電算機室として使用されていた四階部分については被控訴人側で使用中に部分的に張替えを行ったため、色調がばらばらになっており、全面的な張替えを必要とした。さらに、天井にも、パーティションの組替えによるボルト跡の多数の穴が空いていたほか、タバコのやになどによる汚れがあった。空調機内部の汚れもひどく、全面的な掃除をしないとエアコンとしての機能が失われてしまうおそれがあった。」
3 同二七頁一行目の「(六)」を「(七)」に改め、同行の「状態で、」の次に「平成一〇年一一月七、八日ころ二、三階及び五階から退去し、同月二二日ころ四階から退去し、同年一二月一二日ころ」を、同頁五行目の「必要があるとして」の次に「、同月一六日ころ」をそれぞれ加え、同頁九行目の「(七)」を「(八)」に改める。
二 以上の事実関係によると、本件賃貸借契約は平成一一年一月一四日限り、本件駐車場契約は平成一〇年一二月一四日限り、それぞれ終了したことになる。
そこで、以下、原状回復費用及び明渡しまでの倍額賠償の点について判断する。
1 原状回復費用について
(一) 甲第一号証(前記更新後の賃貸借契約書)によれば、本件原状回復条項は、「本契約が終了するときは、乙(賃借人)は賃貸借期間終了までに第八条による造作その他を本契約締結時の原状に回復しなければならない。但し、甲(賃貸人)の書面による承諾があるときは、設置した造作その他を無償で残置し、本物件を甲に明け渡すことができる。」、「本条に定める原状回復のための費用(中略)の支払は第五条の保証金償却とは別途の負担とする。」ことを内容とするものであり(第一一条第一項、第五項)、他方、造作などに関する約定(第八条)には、「乙が本物件内を模様替すること、ならびに造作及び諸設備を新設・撤去・変更する場合、電話架設・電気・水道等の配線配管(中略)等すべて現状を変更する場合には、乙は(中略)、甲の書面による承諾を得た後、自己の負担によりこれをなすものとする。」旨が定められている。
ところで、証拠(乙第一六ないし第一八号証、被控訴人小林勲本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨によれば、一般に、オフィスビルの賃貸借においては、次の賃借人に賃貸する必要から、契約終了に際し、賃借人に賃貸物件のクロスや床板、照明器具などを取り替え、場合によっては天井を塗り替えることまでの原状回復義務を課する旨の特約が付される場合が多いことが認められる。オフィスビルの原状回復費用の額は、賃借人の建物の使用方法によっても異なり、損耗の状況によっては相当高額になることがあるが、使用方法によって異なる原状回復費用は賃借人の負担とするのが相当であることが、かかる特約がなされる理由である。もしそうしない場合には、右のような原状回復費用は自ずから賃料の額に反映し、賃料額の高騰につながるだけでなく、賃借人が入居している期間は専ら賃借人側の事情によって左右され、賃貸人においてこれを予測することは困難であるため、適正な原状回復費用をあらかじめ賃料に含めて徴収することは現実的には不可能であることから、原状回復費用を賃料に含めないで、賃借人が退去する際に賃借時と同等の状態にまで原状回復させる義務を負わせる旨の特約を定めることは、経済的にも合理性があると考えられる。
証拠(乙第一〇号証)によると、平成五年三月九日各都道府県知事あての建設省建設経済局長・建設省住宅局長通達「賃貸住宅標準契約書について」は、民間賃貸住宅の賃貸借契約関係の適正化を促進することを目的として作成された賃貸借契約の雛形として、「賃貸住宅標準契約書」を示しており、その第一一条第一項には、「乙(賃借人)は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗を除き、本物件を原状回復しなければならない。」と規定されていることが認められ、右条項によると、賃借人は「通常の使用に伴い生じた損耗」については、原状回復義務を負わないことになる。右通達は、居住を目的とする民間賃貸住宅一般(社宅を除く。)を対象とするものであり、右条項は、居住者である賃借人の保護を目的として定められたものであることが明らかであって、市場性原理と経済合理性の支配するオフィスビルの賃貸借に妥当するものとは考えられない。
本件原状回復条項は、前記のような文言自体及び造作等に関する特約の内容に照らして、造作その他の撤去にとどまらず、賃貸物件である本件建物を「本契約締結時の原状に回復」することまで要求していることが明らかであるから、被控訴人らに対し、控訴人らから本件建物を賃借した時点における原状に回復する義務を課したものと解するのが相当である。
そして、証拠(甲第六号証、乙第五号証の一ないし六、第一四号証、証人殿木和三郎の証言及び被控訴人小林勲本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨によると、本件ビルは平成五年三月に竣工したオフィスビルで、被控訴人らは本件建物の最初の賃借人であったが、当時の本件建物には、電気・水道・ガス等の設備のほか、壁の全面にクロス化粧が施され、床にはタイルカーペットが敷き詰められ、天井には照明設備及び空調設備が設置されていたこと、被控訴人らは、本件建物の各階をパーティションによって区画し、事務機器等を設置するなどして、二、三階及び五階部分を事務室、四階部分をコンピュータを中心とする電算機室として使用してきたが、四階部分を電算機室とするについては、電気容量を増やす必要があったことから、控訴人らの承諾を得て、そのための配線工事等を行ったことが認められ、被控訴人らが退去した当時の本件建物の状況については、前記認定のとおりである。
そうすると、被控訴人らは、オフィスビルである本件建物を新築の状態で借り受けたのであるから、本件原状回復条項に基づき、通常の使用による損耗、汚損をも除去し、本件建物を賃借当時の状態にまで原状回復して返還する義務があるというべきである。
本件原状回復条項にいう原状回復は、文字通り賃借物件を賃借当時の原状に回復することを意味するものではなく、通常の使用による損耗、汚損を除去するまでの義務はない旨の被控訴人らの主張は採用することができないし、当初の契約時及び更新時に、被控訴人らが控訴人らや仲介業者から本件原状回復条項の趣旨につき特段の説明を受けたことがなかったからといって、前示判断を左右するものではない。また、本件賃貸借契約書第一一条第五項には、本条に定める原状回復のための費用は第五条の保証金償却とは別途の負担とすると規定されていることは、前記認定のとおりであるから、通常の使用によって生じる損耗、汚損の回復は保証金償却費によって賄うべきである旨の被控訴人らの主張も採用することができない。
(二) そこで、本件の原状回復費用の額について検討する。
(1) まず、被控訴人らが本件建物の鍵を控訴人らに返還して本件建物から退去した当時において、被控訴人らが本件建物に設置した電気設備を撤去していなかったことは、前記引用に係る原判決認定のとおりであるから、この撤去に要する工事費用は、当然に被控訴人らにおいて負担すべき原状回復費用に含まれる。そして、控訴人らが右工事を田中電気工業所に施工させ、その費用として四二万円を支払ったことは、前記のとおりであり、右費用が不相当であるといった事情を認めるに足りる証拠はないから、右費用は被控訴人らにおいて負担すべきである。
(2) 次に、控訴人らが太伸産業に空調設備のオーバーホール工事を施工させ、その費用として八三万〇三九三円を支払ったことは、前記引用に係る原判決認定のとおりである。そして、証拠(乙第三号証の一ないし四、第一三号証、証人小林利明の証言)によると、右工事は、本件賃貸借期間中被控訴人らが本件建物に設置された空調機二四台の使用を継続したことによる空調機内部及び吹き出し口の汚れを除去し、本来の機能を回復させるため、これらを分解した上、薬品を用いて洗浄することを主たる内容とするものであり、一部補修個所もあったことが認められる。
このように、右工事は空調設備の本来の機能を回復させるものであるから、本件原状回復条項にいう原状回復に含まれるものと認められる。
(3) さらに、控訴人らが太伸産業に塗装工事、内装工事、クリーニング工事等を施工させ、その費用として四六七万二五〇〇円を支払ったことは、前記引用に係る原判決認定のとおりである。
そして、被控訴人らは、オフィスビルである本件建物を新築の状態で借り受けたのであるから、通常の使用による損耗、汚損をも除去して、本件建物を賃借当時の状態にまで原状回復して返還する義務があることは、前記説示のとおりであるところ、前記認定の被控訴人らが退去した当時の本件建物の状況に照らすと、被控訴人らが本件建物を賃借当時の状態にまで原状回復するには、壁面のクロス及び床面のタイルカーペットの全面的な張り替え、天井の穴埋めと塗り替えを必要としたと認められる。
前記認定のとおり、右四六七万二五〇〇円の工事費は、控訴人らが本件建物の原状回復工事について業者に見積りをさせた中で、電気設備撤去工事及び空調設備オーバーホール工事を除く工事の費用としては最も低額であったことに照らすと、本件建物の原状回復費用としては相当なものと認められる。
(4) したがって、被控訴人らの負担すべき原状回復費用は、(1)、(2)及び(3)の合計額五九二万二八九三円となる。
2 明渡しまでの倍額賠償について
証拠(甲第一号証)によると、本件損害賠償条項は、被控訴人らが定められた明渡期間内に完全な明渡しをしないときは、契約終了日の翌日から残存物の処分完了に至るまでの間、賃料及び共益費の倍額に相当する金額を支払うというものであり、他方、本件原状回復条項は、賃貸借期間終了時までに造作その他を賃貸借契約締結時の原状に回復しなければならないというものであるから、被控訴人らは、賃貸借期間終了時までに原状回復をしなければならず、明渡期間内に完全な明渡しをしないときは、本件損害賠償条項に従い、賃料及び共益費の倍額に相当する金額を支払う義務があることになる。そして、控訴人らは、本件賃貸借契約が終了した平成一一年一月一四日までの間に被控訴人らが原状回復工事を行わなかったため、控訴人らにおいてこれを施工させ、そのために同月七日から同年二月七日ころまでの日数を要したとして、被控訴人らには、本件賃貸借契約終了の日の翌日である同年一月一五日から明渡し処分完了に至った同年二月四日までの間、賃料及び共益費の倍額に相当する金員を連帯して支払う義務がある旨主張する。
しかしながら、前記引用に係る原判決認定(訂正部分を含む。)のとおり、被控訴人らは、電気設備撤去工事を含む原状回復工事を施工しようとして、平成一〇年一二月一六日ころ、控訴人らに対し、本件建物の鍵を交付するよう求めたが、控訴人らがこれに応じず、そのため、所期の原状回復工事を実施することができなかったものである。そして、証拠(甲第五、第六号証、乙第一四号証、証人殿木和三郎の証言、控訴人小林勲本人尋問の結果)によると、被控訴人らが平成一〇年一〇月一五日に控訴人らに対して本件賃貸借契約及び本件駐車場契約を解約する旨の予告をした後、控訴人らが同月二七日ころ被控訴人らに対し原状回復費用六九〇万円の日本建設の見積書を交付したところ、被控訴人らは、高額にすぎるとしてこれに強い不満を示し、同年一一月二日ころ、控訴人に対し原状回復費用一二四万六六〇二円のフジオカの見積書を交付するなどして、当初から原状回復に関する控訴人らと被控訴人らとの考え方に大きな開きがあったこと、控訴人らにとって、被控訴人らの主張する原状回復工事の内容は到底受け入れる余地のないものであったため、控訴人らは、被控訴人らからの本件建物の鍵の交付要求を拒否したことが認められる。このように、原状回復に関する控訴人らと被控訴人らの考え方に当初から大きな開きがあって、控訴人らにとって、被控訴人らの主張する原状回復工事の内容は到底受け入れることができないものであり、その点について妥協の余地はなかったのであり、他方、控訴人らが被控訴人らから本件建物の鍵の返還を受けた後は、被控訴人らは本件建物に立ち入ることができず、本件建物は控訴人らの占有に移ったのであるから、その後は控訴人らが自己の主張する原状回復工事を自由に行うことができ、その工事費用の支払(負担)を求めれば足りたものと認められる。
控訴人らが被控訴人らから本件建物の鍵の返還を受けたのは、前記引用に係る原判決認定(前記訂正部分を含む。)のとおり、平成一〇年一二月一二日ころであること、控訴人らが自己の主張する原状回復工事を実施するのに要した期間はほぼ一か月間であったことを考慮すると、控訴人らは、自己の主張する原状回復工事を平成一一年一月一四日ころまでの間に完了することができたものと認められる。
そうとすれば、被控訴人らが控訴人に対して賃料及び共益費の倍額に相当する金額を支払う義務はないというべきである。
3 以上によると、本件賃貸借契約終了に際して被控訴人らが控訴人らに対し支払うべき金額は、
(一) 未払賃料
五一四万八三八七円
(二) 共益費 八七万二六五一円
(三) 水道・光熱費
一一二万五五九四円
(四) 原状回復費用
五九二万二八九三円
の合計一三〇六万九五二五円となり、被控訴人アポロ出版については、このほか
(五) 駐車場賃料
三〇万四八三八円
となるところ、被控訴人らは、本件建物の明渡しに際し、償却費として一八〇万円(消費税別)を保証金から支払うものとされているから、被控訴人らに返還される保証金は、一二〇〇万円から消費税込みの償却費一八九万円を控除した一〇一一万円となる。
したがって、被控訴人らは、連帯して、控訴人らに対し、右一三〇六万九五二五円から右一〇一一万円を控除した残金二九五万九五二五円及びこれに対する本件反訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成一一年五月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、被控訴人アポロ出版は、右のほかに、控訴人らに対し、右駐車場賃料から本件駐車場敷金二〇万円を控除した残金一〇万四八三八円及びこれに対する同じく平成一一年五月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
第四 結論
以上の次第で、控訴人らの反訴請求は右の限度において理由があるから認容すべきであるが、その余は理由がないから棄却を免れず、被控訴人らの本訴請求は理由がないから棄却すべきである。
よって、原判決は右と抵触する限度において相当ではないから、控訴人らの控訴に基づき、原判決を主文第一項のとおり変更し、被控訴人らの附帯控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第六七条第二項、第六一条、第六四条、第六五条第一項を、仮執行の宣言について同法第三一〇条、第二九五条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・魚住庸夫、裁判官・飯田敏彦、裁判官・小野田禮宏)